私たち日本人は金融教育を受けていないから金融リテラシーが低く、投資のハードルが高いという声を多数いただきます。先進国の他の国では金融教育が行われ、金融リテラシーの向上が積極的に図られているのに、なぜ日本ではそのような動きがないのでしょうか。
「江戸っ子は宵越しの銭は持たない」という言葉がありますが、実は、江戸時代の人々は高い金融リテラシーを身に着けていたそうです。
その高い金融リテラシーは、なぜ現代に生きる私たちに引き継がれていないのでしょうか。
今回は、日本人と金融リテラシーの関係についてお届けします。
もくじ
日本人は金融リテラシーが低いって本当?
金融リテラシーというと、「金融に関する知識や情報を理解する能力」と思っている人が多いかもしれません。
日本証券業協会によると、金融リテラシーとは、『金融に関する知識や情報を正しく理解し、自らが主体的に判断することのできる能力のこと。そして、社会人として経済的に自立し、より良い暮らしを送っていく上で欠かせない生活スキルのことである。』と定義しています。
つまり、金融リテラシーとは、ただの金融知識にとどまらず、生活スキルの一つとして位置づけされるほど重要なものなのです。
学校で金融教育を行っていない日本では、金融リテラシーが低いと一般的に言われています。
金融広告中央委員会が2016年、18~79歳の25,000人を対象に実施した「金融リテラシー調査」では、全体の正答率は55.6%という結果でした。
この結果は、米国でも同様の調査を行った際の正答率と比べると4~30%程度下回っています。OECDが実施した同様の調査のうちドイツ、英国と比較しても下回っており、「他の先進国と比べて、金融リテラシーは低い」という実態を見てとれます。
日本 | 米国 | 英国 | ドイツ | |
72の法則 | 42 | 50 | – | – |
複利(5年後) | 43 | 75 | 37 | 47 |
分散効果 | 46 | 48 | 55 | 60 |
債券価格 | 24 | 28 | – | – |
リスク・リターン | 75 | – | 79 | 77 |
*金融リテラシー調査2016年調査結果より一部抜粋 (数字は%を表す。)
日本における金融教育の歴史
戦中・戦後の日本の金融教育論
金融教育の歴史で一般的に良く述べられていのが、1952年の貯蓄増強中央委員会の発足が、日本における金融教育のスタートとされています。貯蓄増強中央委員会とは金融広報中央委員会の前身で、「貯蓄」の意識啓蒙を行うことを目的に誕生しました。
しかし、実は、そのずっと前の1880年の明治時代から、小学校では学校貯金が行われていました。これは、子どもたちに現金や郵便切手を持参させ、学校を通じて銀行や郵便局に預けるという取り組みで、教育活動の一環としてかなり広く行われました。
そして、この活動が戦後の貯蓄推奨の動きへと繋がり、金融教育とは貯蓄推奨、という流れに結び付いたと思われます。
江戸時代は金融教育が盛んだった?!
明治からの貯蓄の推奨を学校で教育され、金教育の普及および金融リテラシーの習得率では先進国の後塵を拝している日本ですが、さらに過去に遡ると金融リテラシーを身に付ける金融教育が盛んに行われていた時期があります。
そのきっかけが江戸時代、庶民教育の要求に応じて自然融発生的に成立した寺子屋です。寺子屋では主に、いろはや漢字などの読み書き、往来物、そして和算が教えられていました。
この和算の中に利息算も含まれていました。利息計算とはつまり、複利の計算で資産形成において非常に重要な知識の一つです。
江戸時代ではこの利息計算を、お金を借りる時はもちろん税金を納める時にも使っていたようです。現代の会社員のように源泉徴収という制度はないため、納税義務がある人は自分で計算して納税する必要があり、今よりもずっと利息計算が身近なものでした。
人口の8割以上が農民だった江戸時代において、納税=年貢の納めで利息計算をするのは、まさに生活のスキルそのものだったのでしょう。
江戸時代の寺子屋で教えられていた和算を使った利息算の例
・銀2 割にして5年以前に貸し,当年までに元利合3貫732匁4分8厘に成る時,5年以前の元銀は何程ぞと問。
・米6石借6年目に60石になる時,これ何程の利足に当るか。
参照:「和算における利息算」
金融教育の転換、明治時代
寺子屋で教えられていた金利計算や複利計算の学習は、明治維新を経て引き継がれ、明治政府が策定して学習要綱に加えられ、算数として学校で教え続けられました。
明治時代は近代化が進み、農民が減りから会社勤めの会社員が増えました。会社員だと、納税は源泉徴収のため、基本的には自分で税金の計算をすることがなくなり、納税のための金利や複利の知識を身に付ける重要度が低下しました。
その影響か、学習要綱から複利計算などの項目が削除され、学校教育で資産形成に必要な金利や複利を学ぶ機会がなくなり、現在に到っています。
現在の金融リテラシー習得の取り組み
金融リテラシーを高めるための金融教育を
• 「お金にかかわる幅広い教育」
• 「お金や金融のさまざまな働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育」
と定義し、家庭・学校・キャリアの各ステージで、金融リテラシーを身に付ける様々な活動を行っています。
ITの発展と共に金融を取り巻く世界も瞬く間に変わっています。フィンテックを活用して投資の簡易化や、キャッシュレス化などで、金融事情はさらに大きく変わっていくことが予想され、金融教育はますます重要になっていくことでしょう。この分野での官民挙げてのさらなる取り組みが期待されます。
まとめ
金融教育の歴史について、江戸時代にまで遡りその変遷を見てきました。
これまでは、公の場でお金を語ることを憚り、貯蓄を美徳とする習慣があるため、日本では金融教育が進んでいないと多くの場で述べられていましたが、そのずっと前には日本の近代化(サラリーマン化)が大きく起因していました。江戸時代では意外にも金融教育が活発で複利や金利計算を学校(寺子屋)で学び、身に付けていたのです。
金融リテラシーの低下は農民から会社員への変化に伴う、お金の流れの自動化です。給料が自動で振り込まれ、税金も自動で納税されます。
私たちはその重要性を実感し、実際に頭を動かして初めて知識を定着させることができます。
AIによるロボットアドバイザーを使うと、金融リテラシーがなくても投資は始められます。しかし、投資は始められても、資産が増える投資かどうかは分かりません。
官民総出で金融リテラシーを身に付ける機会をたた設けているため、これらの機会も活用し、金融リテラシーを一歩ずつ向上させていきましょう。